祖父がYKKに依頼して鞄にファスナーを取り入れたのです。そんなこともあって、ただ鞄をつくろうということではなくて、ファミリーヒストリーだったり、日本の、メイドインジャパンの意味だったり、そういうことの全てをこの鞄で表現しました。クリエイターとしての誇りと想いをこめていく。一方で、金具が邪魔しないっていうのも大事です。その作品である鞄を。
商品の背景にあるロックスタイル
―普通は底面にある鋲(スタッズ)を側面に付けているのは、何か理由があるのですか。
横から見た時にもKICHIZOだってわかるようにスタッズを打ってます。普通ここは素気無いというか、あまりデザインしないところですが、前後ろから見ても横から見てもKICHIZOらしさがある、というものにしたかった。ちょっとロックな感じがしませんか?スタッズの感じが。デニムにも合うし、普通のパンツにも合う。色んな人が楽しめればと思っています。
―キーホルダーにTENDER LOVIN’ CAREと刻まれていていますが、これはどういう意味ですか?
思いやりという意味です。よくエルビス・プレスリーが使っていたフレーズ。KICHIZOを立ち上げるときに、克幸が昔作った黒いキャンバスのシリーズや、革のシリーズを晃務は意識しました。80年代だったかな、真っ黒な鞄にゴールドのリングをつけた商品があったのですが、その相性がすごく良かったのを思い出しました。ただの飾りではなくてキーホルダーになるようにと。ウォレットチェーンでも同じような形でやりました。鞄を買うと、キーホルダーがおまけでついてくるっていう発想です。

鞄に付属しているキーホルダー
裏地やハンドルにもこだわりが
―鞄の内側の生地が光沢のあるキルティングって、高級感があって良いですね。
表はハードなキャンバスだけど、中はナイロンキルティングですごく気持ちいい。表と裏のそれぞれの楽しみがあります。ヨーロッパの釣りのジャケットとかでありますよね、キルティングのナイロン。綿も少なめにして。手を入れて気持ちがいい。ちょっとしたクッション性もあるので、ぼんぼんとものを放り込んでも大丈夫です。

鞄を開けるとガラッと印象がかわるキルティング
―持ち手のハンドルが反対向きなのはなぜですか?
手で持つと裏が見えて、ストラップで肩掛けにするとハンドルが下がって表が見える。別の使い方をした時にこういう楽しみ方も出来ますっていう提案です。普通は1時間に数本作れるのですが、この鞄のハンドルは1本作るのに1時間かかります。実際に製作している工場に見に行きましたが、すごいですよ。これを作っている光景というのは。熟練の職人さんがひとりで集中して、丁寧に革の端っこのコバを磨いて仕上げていきます。 革も浴槽でなめしています。タンニンなめしで、やっぱりツヤ感がいいですよ。

一般的な鞄と反対向きに取り付けられているハンドル
今なお追い続ける祖父・吉蔵氏の背中
―吉蔵氏はどんな方だったのですか?
僕が育った家の1階に祖父の作業場がありました。3時になるとお茶の時間で、幼い頃母親にお茶を持っていきなさいと言われて、作業場に行きました。部屋に入ると祖父が居て、子どもが近寄りにくい『怖い』って感じるオーラがありました。僕のことに気付くと、孫が来たっていうので喜んでいましたけれど。その近寄りがたい雰囲気は強く印象に残っています。今でも。このブランドをつくるとき、革と手縫いは大事にしたいという思いがありました。祖父は晩年、半身不随で片方の手が使えなくなってしまいましたが、それでも縫っていましたから、片手で。それを病室で見たとき、僕は18歳くらいだったと思います。吉田家は皆その姿を見てしまってから、どんな時でもサボれなくなりましたね、言い訳できないと言うか。吉田吉蔵のカバン道はみんなで守りたいですね。

祖父・吉蔵氏について語る吉田玲雄氏
■ポータークラシック取締役 吉田玲雄(よしだ れお)氏
2007年に父・吉田克幸氏と共にポータークラシックを立ち上げ、取締役としてクリエイティブディレクターを務める。日本の鞄業界の礎を築いた吉田吉蔵氏の孫。写真家やライターとしても活躍し、自身の体験を元にした小説「ホノカアボーイ」は岡田将生さん主演で映画化。
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